2ちゃんねる ★スマホ版★ ■掲示板に戻る■ 全部 1- 最新50  

■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

【響鬼】鬼ストーリー 弐之巻【SS】

1 :名無しより愛をこめて:2007/02/06(火) 23:58:26 ID:msaEl9fP0
「仮面ライダー響鬼」から発想を得た小説を発表するスレです。
舞台は古今東西。オリジナル鬼を絡めてもOKです。

【前スレ】
【響鬼】鬼ストーリー(仮)【SS】
http://tv9.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1164788155/

【まとめサイト】
http://olap.s54.xrea.com/hero_ss/index.html
http://www.geocities.jp/reef_sabaki/

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/〜walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます

次スレは、950レスか容量470KBを越えた場合に、
有志の方がスレ立ての意思表明をしてから立ててください。

過去スレ、関連スレは>>2以降。


2 :名無しより愛をこめて:2007/02/07(水) 00:00:24 ID:msaEl9fP0
【過去スレ】
1. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1131944389/l50(DAT落ち)
2. 裁鬼さんが主人公のストーリーを作るスレ その2
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1138029584/l50(DAT落ち)
3. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1139970054/l50(DAT落ち)
4. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 弐乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1142902175/l50(DAT落ち)
5. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 参乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1146814533/l50(DAT落ち)
6. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 肆乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1150894135/l50(DAT落ち)
7. 裁鬼さん達が主人公のストーリーを作るスレ 伍乃巻
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1158760703/l50(DAT落ち)
8. 響鬼SS総合スレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1162869388/l50(DAT落ち)

【関連スレ】
--仮面ライダー鋭鬼・支援スレ--
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1124581664/l50(DAT落ち)
弾鬼が主人公のストーリーを作るスレ
http://tv7.2ch.net/test/read.cgi/sfx/1133844639/l50(DAT落ち)


3 :名無しより愛をこめて:2007/02/07(水) 00:07:32 ID:TyzITfiS0
用語集Wikiへのリンクは?

4 :凱鬼メイン作者 ◆Gs3iav2u7. :2007/02/07(水) 16:53:33 ID:wjHvF4/B0
乙です。

5 ::2007/02/08(木) 00:23:39 ID:I3IBniyQ0
Σ(゚Д゚;アラ? 用語集別冊のことをすっかり忘れてたワ。
それ以前に、本家の方のアドレスがオカシクなってるワ。これでどうかしら。

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/〜walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます
http://www23.atwiki.jp/hibikiyougoshu/
※別冊(Wiki)

別冊管理人サン、前スレ613へのレスポンスはまだかしら。

6 ::2007/02/08(木) 00:30:17 ID:I3IBniyQ0
やっぱりチルダが全角になっちゃう・・・orz
えい、も一回。

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/〜walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます

7 ::2007/02/08(木) 00:35:24 ID:I3IBniyQ0
テスト専用スレッドでは上手くいったんですケド・・・(´・ω・`)
あきらめますた。スレ汚し失礼。

8 :名無しより愛をこめて:2007/02/08(木) 00:36:50 ID:uC5EkTzl0
ほいよ〜。>>1さん応援。

【用語集】
http://www.iiyama-catv.ne.jp/~walachia/index.html
※用語集へはTOPの「響鬼」でたどり着けます




9 ::2007/02/08(木) 00:42:17 ID:I3IBniyQ0
>>8
ありがとうございました。

10 :名無しより愛をこめて:2007/02/08(木) 18:13:09 ID:7YuPN49F0
Wikiですが、2/8付でトップページが更新されてますが、
作品名列挙のあたりは前のままですか?
私のパソコンのブラウザのキャッシュが古いのでしょうか?
人名の注釈、「※まだオフィシャルのものしか収録していません」が、
無くなっているのは確認しました。

>これは響鬼スレ用語集の別冊です。
>用語集サイトさんが掲載しきれない作品(たとえば――皇城の守護鬼、風舞鬼、凱鬼メイン、見習いメイン、中四国支部鬼譚、等々)を補完します。
>裁鬼、裁鬼最終章、鋭鬼、弾鬼、剛鬼、高鬼、ZANKI、DA年中行事、桐矢京介については用語集サイトさんをご覧下さい。

私も前スレ613(このスレ>1)と同意見で、↑二行目の作品名列挙はいらないと思います。
新規の作品もこれから増えて行くと思いますし、増えて欲しいですし。
三行目の方は、用語集さんが書かれると宣言されているので、そのままでいいと思います。


613 名前:552 投稿日:2007/02/02(金) 21:42:00 ID:6UHsMKHR0
>>553

別冊管理人さん、早速のご対応ありがとうございました。

たびたびですみませんが、更に二点ほどおねがいがあります。

・トップページの「用語集サイトさんが掲載しきれない作品、つまり〜」とありますが、
 いま列挙されている作品だけではなく、本家用語集であつかっていない他の作品の
 用語を追加することもあると思いますので、「〜掲載しきれない作品を補完します」
 でよいと思うのですが、どうでしょうか?

・『人名』の注釈に「※まだオフィシャルのものしか収録していません」とありますが、
 すでに『皇城の守護鬼』について追加されていますので、この文言はなくてもよいと
 思うのですが、どうでしょうか?

かさねがさねお手数をおかけしますが、よろしくおねがいいたします。

11 :名無しより愛をこめて:2007/02/08(木) 20:11:51 ID:ZJFpivQH0
別にあってもいいじゃん
それ以外は扱わないと書いてあるわけじゃないんだし
むしろ、無くして欲しい理由を知りたい

12 :名無しより愛をこめて:2007/02/08(木) 20:17:54 ID:SYNocc8e0
差分見たら、微妙に変わってたケドね。>>10のブラウザのキャッシュは大丈夫ヨン。
でも結局前スレ613のオネガイは伝わってナイので、管理人さん更に編集ヨロ。
二行目の作品名列挙、取ってくださいネ。

( ゚∀゚)o彡゜オネガイ!オネガイ!

・・・>>11はナニ怒ってんの?

13 :10:2007/02/08(木) 21:06:09 ID:7YuPN49F0
>11
作品名列挙を外した方が良いと思ったのは、
「等々」にあたる作者さんに対して、失礼な表示だと感じ続けていたためです。
閲覧者としても、投稿作品をアップしている個人サイトや、やまとめサイト上で、
こうした表記で差別するのは、いい印象を受けません。
今後作品が増えていって、キャラや用語も増えて行くと思いますが、
その方達は全て「等々」にあたるのでしょうか?
全ての作品を網羅されるのでしたら、全ての作品に平等であって欲しいと思って書き込みました。

名前が挙げられた作者さんと、挙げられない作者さんをワザワザ作らずとも、
「用語集サイトさんが掲載しきれない作品」のみで、説明が可能です。
逆に列挙しなければならない理由を聞かせて頂きたいです。

14 :名無しより愛をこめて:2007/02/08(木) 21:11:08 ID:ZJFpivQH0
そんなことは、今「等々」で括られてる作品の用語が掲載されてから初めて考えればいいだろ・・・
そんなことでグダグダ揉めてないでまずは用語集をまともに機能させようや

15 :名無しより愛をこめて:2007/02/08(木) 21:35:43 ID:SYNocc8e0
ID:ZJFpivQH0

16 :名無しより愛をこめて:2007/02/09(金) 23:29:27 ID:jOZx2Eu80
( ^ω^)>>14キメェ

17 :名無しより愛をこめて:2007/02/10(土) 01:47:27 ID:p/Dn9i0s0
用語集のトップから作品名がなくならなきゃ気が済まない御仁が一人だけいらっしゃるようですね。
見なくていいですよあなたは。用語集を。

18 :名無しより愛をこめて:2007/02/10(土) 02:42:27 ID:DG10he2x0
( ^ω^)いちいちageなくてもいいお

19 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/10(土) 10:55:25 ID:8h4i0JKXO
――瞬過終闘 「四 弾鬼 《喪う道(ひかり)》」

身体が、動かない。痺れとも痛みとも言えぬ灼熱が、弾鬼の全身を内から攻め続けていた。
謎の『影』に完敗した後、崖から転落した弾鬼は運良く激流から浮かび上がり、太古から堆積し続ける砂利が築いた浅瀬に辿り着いていた。
「‥‥ち、きしょ‥‥う‥‥」
仰向けのまま大の字となり、呟くのがやっとだった。あまりに不意の、あまりに悪意に満ちた『影』達の攻撃は、あきらかに弾鬼達を殺そうとしていた。
開く事も出来ぬ右手の音撃棒『那智黒』は柄の部分から先が砕けており、感覚がないまま流れ続ける血が蒼い腕と黒い身体に赤い筋を残しながら流れていく。
「‥‥ねぇ、ぞ‥‥ みと、め、ねぇ‥‥ ぞ‥‥!」
次第に傾いていく太陽は不屈の魂に気も止めず、ただ、雲間からその鬼を照らすだけだった。

臨時休業の紙も気にせずたちばなの戸を開けたのは、黒いスーツを着て眼鏡を掛けた、40半ばほどの見知らぬ男だった。
男に続き、下腹部をわざと見せる為の小さな上着にミニスカート、派手なブーツのいかにも今風といった若い女、赤いライダースーツに、ゴーグルを開けたヘルメットで顔を隠す男が店に入ってきた。
「やあ皆さん。御集まりのところを失礼‥‥」
低くそう言ったスーツの中年は、無言の店主達を気にせず近くの椅子を引き寄せて腰掛け、女は鼻歌を唄いながらテーブルに置かれていたメニューを手にする。
ヘルメットの男が戸を閉めた。
スーツの中年は上背があるが細身で、鬼達とは正反対の身体に色の白い顔を乗せていた。細い目で、眼鏡越しに勢地郎達の顔を順に眺め、足を組んだ。
「そちらが立花さん、ですね。私はこういう者でして‥‥」
懐から取り出された名刺を、取り敢えず受け取る勢地郎。普段は温厚な甘味処の親父である彼の『仮面』は、この緊急事態に外されていた。
「‥‥『防衛省』? この甘味処に一体、何の御用でしょう?」
手にした名刺から対面する顔へ視線を上げた勢地郎に、男は淡々と答えた。
「下っ端職員ですがね。今日は少し話があるんです‥‥」
男は両手の指を交互に絡めて膝の上に置くと、微かに唇の端を持ち上げた。
「『鬼』の、方々にね」
若い女とヘルメットの男も、冷たい笑顔を見せた。

20 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/10(土) 11:07:49 ID:8h4i0JKXO
弾鬼にとって幸運な事が、二つあった。
謎の弾丸は紙一重で急所を避けており、血は止まらないが自力で立ち上がれるまでに回復した。
歩き始めるが逃亡者としての速さは皆無で、武器も無く、このまま『影』や黒い集団に発見されてしまえば、次はない。そんな弾鬼の前に、敵より早くゴウキが現われた。
「おい、しっかりしろ弾鬼!」
「なんで‥‥ゴ、ウキさんが‥‥?」
弾鬼に肩を貸しながらその傷に驚き、それでもゴウキは力強く言った。
「おやっさん直々の御指名を受けてな。敵の事は聞いた。ショウキも無事だ!」
弾鬼にとって、否、弾鬼とゴウキにとって不幸な事が、一つあった。
「目標発見!」
黒い戦闘集団が川沿いの林から次々と現われ、右手のガトリングガンを構えながら二人を取り囲んだ。

「‥‥貴方がイブキさん。そちらの奥がバンキさんですね」
たちばなに初めて訪れたはずの防衛省職員は、イブキとバンキの顔を確認すると、立ち上がった。
「‥‥話って、何ですか? 今はそんな――」
「『鬼』を辞めて頂きたい!!」
不審な言動に苛立ったイブキに向かい、男は初めて大きな声を出した。
「‥‥と、いう話です」
静かな口調に戻してそう加え、中年の男は背を向けてヘルメットの男に軽く手を挙げた。開かれた戸の先、たちばなの店舗前には、いつの間に停車したのか黒い高級車が待機していた。
「‥‥ここから先は、我々の車でお話しましょう」
店から出ようとする男に、沈黙していたバンキが言った。
「待ちなさい」
振り向く男の前に立ち、バンキは続ける。
「我々は確かに『鬼』です。だが貴方達は、貴方お一人が身分を証しただけだ。簡単に信用出来なければ、『鬼』を辞しろと謂われる理由も聞いていない」
「‥‥僕達は一人で戦っている訳じゃないんです。説明はここで、今居る全員にお願いします」
イブキの言葉に笑みを崩さぬまま頷くと、自称防衛省職員の男は表に出て車を帰らせ、また店内に戻って腕時計を見た。
「‥‥2時12分。奥でテレビでも観ながら、ゆっくりと話しましょう。国営放送は如何です? 面白いものが観れるはずですよ‥‥」
居間に座る男がテレビの電源を入れた途端、スピーカーからの絶叫が店内に響き渡った。

続く

21 :高鬼SS作者 ◆Yg6qwCRGE. :2007/02/10(土) 22:31:48 ID:2nMy+XCc0
短編の予定だったのに、
登場キャラの濃さ故か、取り上げた怪談の内容故か長編になってしまった東京編。
今回は、名前だけは以前出てきたカザムキさんの描写に挑戦しております。
幾つかの石ノ森作品のキャラが混じっていますが、わざとですので気にしないで下さい。
それではどうぞ。

あと余談ですけど、近日所用で北陸の方に出掛けるので、
良いネタが拾えたらそれを基に北陸支部ネタを一本書けないかなぁ…とか思っています。

22 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:34:22 ID:2nMy+XCc0
東京、台東区浅草。
地元の住人や観光客達が、奇異の目である人物を見ている。カメラを持った外国人観光客が一斉に写真を撮り始めた。
人々の輪の中心では。
全身鳩にたかられた男が、平然と鳩に餌を与え続けていた。餌をやる度に鳩が集まり、その分鳩密度が増していく。
川口浩が居たら真っ先に捕まえに来そうなこの鳩男の傍へ、白いスカーフを首に巻いてギターケースを担ぎ、テンガロンハットを被ったウェスタンルックの男が歩み寄ってきた。
「こんな所で油を売っていたのか、ザンキ」
「あ、カザムキさん」
一斉に鳩が飛び立った。

仲見世通りで買ってきた揚げ饅頭を頬張りながら、近くのベンチに腰掛けたザンキとカザムキがこれからの任務について話し合っている。
「……油を売っていたとは言ったが、別に揚げ物を食べたかったわけじゃないぞ」
「でも美味しいでしょ、揚げまん」
そう言いながら実に美味そうに揚げ饅頭を食べるザンキ。
と、そこへ。
「見つけたぞ、この野郎!」
汚い言葉を吐きながら、派手な茶髪に耳ピアスをした体格の良い男が二人の座っている方へと駆け寄ってきた。
「あ!四国支部の……」
「四国支部?お前さんが昨日まで遊びに行っていた、あの?」
そう。駆け寄ってきたのはキリサキだった。
「よう!観光か?」
「馬鹿野郎!てめえを一発ぶん殴りに来たんだ!これを見やがれ!」
そう言ってあの時ザンキから渡された紙片を取り出すキリサキ。思いっきり握り締めたのであろう、皺くちゃになったその紙には「これを見たら三日以内に死ね」と書かれてあった。
「どういう了見だ?こんな文句書きやがってよ。返答次第じゃ只じゃあ済まねえ……」
だが、そんなキリサキに対してザンキは平然と。
「渡す時、また俺達が会えるように祈りを込めて書いたって言ったろ?予想通り怒ったお前が俺に会いに来て、言った通りになったじゃないか。尤も、こんなに早く来るなんて予想外だったがな」
この言葉に思いっきり肩透かしを喰らってしまうキリサキ。
「な、何だと……?」
「お前、いつの飛行機で来たんだ?朝一か?」
「昨日、お前が帰って直ぐだ。席を取れたのが最終便で、こっちに着いた後空港で夜を明かして、その後関東支部に行って……」
迷惑な人だ、とカザムキが呟く。

23 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:36:11 ID:2nMy+XCc0
「支部長に俺の居場所を聞いてきたのか?支部長、何か言ってなかったか?」
「いや別に。ただ、俺にお前の居場所を教えてくれた後、大量に薬を飲んでいたが……」
「あ〜あ、また支部長の胃の調子が悪くなったんだ。お前のせいだぞ」
自分の事を棚に上げて、責めるような口調でザンキが言う。
「何だと!?元はと言えばてめえが妙な文を書くからこうなったんじゃねえか!やっぱり一発殴らせろ!」
そう言って拳を握り締めながらザンキに近付くキリサキを、カザムキが止めた。
「まあ待て。折角だ、君にも我々の手伝いをしてもらおう。どうせこいつを殴った後、暇だろう?」
「何!?」
突然の事に狼狽えるキリサキ。有無を言わせぬ威圧感がカザムキにはある。
「報酬はこの男を一発殴れる権利。悪くないだろ?」
「おい、ちょっと待てって!」
抗議を始めたザンキを無視して交渉を続けるカザムキ。キリサキもその条件を呑み協力を約束した。

24 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:39:39 ID:2nMy+XCc0
「……では自己紹介をさせてもらおう。俺はカザムキ。関東支部所属の弦使いだ」
「俺はキリサキ。あんたと同じ弦使いだが、着のみ着のままで来たから鬼弦以外は持ってきてねえ。だから役に立てるかは分からねえぞ」
「なあに、君はこの男の面倒を見ていてくれるだけで良いさ」
そう言うとカザムキはザンキの肩をぽんと叩いた。
それを見てキリサキは、四国に続いてここでもザンキの面倒を見なければならない事に対し苛立ちを覚えていた。だが約束してしまった以上仕方がない。
渋々頷くキリサキ、そしてザンキに対し、カザムキは今回の任務についての説明を始めた。
「本所七不思議というのを知っているか?」
「知ってるぜ。有名だからな。確か……置行堀(おいてけぼり)や狸囃子の事だろ?」
キリサキが答える。
「そう。置行堀、送り拍子木、送り提灯、燈無蕎麦(あかりなしそば)、足洗邸(あしあらいやしき)、片葉の葦、狸囃子。基本的にこの七つがそうだとされている」
何でも、ここ数年のイレギュラーの発生や稀種の増加に伴って、この本所七不思議の化け物達までもが動き出したらしいという報告が地元の「歩」から寄せられたのだと言う。
「数が数だからな、俺と今日手が空いているこのザンキの二人で行く事になった。尤も、三人目の登場という嬉しい誤算もあったが」
そう言うとカザムキは地図をザンキに渡した。
「場所は隣の墨田区だ。印が付いているのが出現予想ポイント。何か質問は?」
「今から行くのか?」
ザンキの問いにカザムキは首を横に振った。
「残念ながら連中は深夜にしか現れない。だからそれまでは自由時間だ。キリサキとか言ったな。良かったら下町の案内をさせてもらうぜ」
キリサキに向かってカザムキがにっこりと微笑みながら告げた。

25 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:41:39 ID:2nMy+XCc0
墨田区、丑三つ時。
カザムキ、ザンキ、キリサキの三人は深夜の街を闊歩していた。ザンキは頬を痛そうに押さえている。前払いとしてキリサキに殴られたのだ。
「あのな、出撃前に本気で殴ってどうする?これが元で俺が魔化魍にやられちゃったら、どう責任を取ってくれるんだよ?」
「とりあえず骨は拾ってやらぁ」
ザンキの愚痴に対し、素っ気無くそう言い返すキリサキ。
「いいか。街中で、しかも時間が時間だから目立つ行動は慎むように。これ以上支部長の胃を悪くするわけにはいかないからな」
ザンキを見ながらカザムキが告げる。
「先ずは狸囃子から退治に行く。御大層な名前が付いているが、ようはムジナだな。太鼓はちゃんと持っているか?」
「大丈夫だぜ」
そう言いながら音撃棒・落雷を得意気に掲げてみせるザンキ。キリサキにも練習用の音撃鼓と音撃棒が貸し出されている。四国の時と逆の立場だ。
「では行こう」
カザムキに従って、ザンキとキリサキは狸囃子の出現予想地点へと向かっていった。

26 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:42:57 ID:2nMy+XCc0
深夜の街を進んでいく三人。たまにザンキとキリサキが口喧嘩を始めるが、その都度カザムキに窘められている。
街燈の光に照らし出される影が、やけに不気味に感じられる。昼間と夜とで、街はこんなにも顔を変えるものなのか。街中での魔化魍戦には不慣れなキリサキはそんな事を考えていた。
と。
カチ、カチという乾いた音が聞こえてきた。そして前方に薄っすらと灯りが燈る。
闇の中、丸く切り取られた光の空間の中に、黒帷子姿の童子と白帷子姿の姫が現れた。童子は手に拍子木を、姫は提灯を持っている。
童子が拍子木をカチッと鳴らした。
「向こうから出てくるとはな……」
カザムキが肩に背負ったギターケースを下ろしながら言う。これが送り拍子木と送り提灯だ。
「あれが?何かの魔化魍の童子と姫じゃねえのか?」
「多分そうなんだろうが、未だに真相は明かされていない。……気を付けろ」
キリサキの問いにカザムキが答える。
だが、襲い掛かってくるかと思いきや、童子と姫はそのまますぅーっと滑るように遠ざかっていった。
「おい逃げたぞ。追うか?」
「全員で行く事も無い。あの二体は俺に任せて、君達は予定通り狸囃子を」
それだけ言うと二体の後を追って駆けていくカザムキ。後にはザンキとキリサキだけが残された。
「……やられた。こいつの面倒を全部押し付けられた」
「あれ、どう見たって罠だぜ。何処かに誘き出そうという意図が見え見えだったもん。大丈夫かなぁカザムキさん」
そう言いつつも口調からは全く心配しているように見えない。余程カザムキという鬼が実力者なのか、それとも……。
そこまで考えてキリサキは思考を止めた。とりあえず今は与えられた任務をこなすだけだ。既に報酬は前払いで貰っているし。
「おい、さっさと狸狩りに行くぞ。連中との戦いは慣れているから、俺の指示に従ってもらうぜ」
ムジナは四国支部恒例の「太鼓祭り」で何度も交戦経験がある。しかも隠神刑部狸の血を引く、四国特有の強力なやつとだ。
「やけに張り切ってるなぁ。いつもこうなのか?」
「うるせえ!さっさと付いてきやがれ!」
ほんの先月、件の「太鼓祭り」を終えたばかりのキリサキは、まさか関東に来てまでムジナ退治をする羽目になるとは夢にも思っていなかった。
つまり――ただ苛ついているだけである。

27 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:44:27 ID:2nMy+XCc0
「その前にさ、何か夜食でも食べない?俺、腹が減っちゃってさ……」
大袈裟に腹を押さえながらザンキが言う。
「んな事言ったってなぁ……」
当然ながらこの時代に二十四時間営業の店はそんなに多くない。我が儘を言うザンキを無理矢理引っ張っていくキリサキ。
すると、目の前に屋台の蕎麦屋があるのが見えた。
「おおっ!これぞ神の思し召しと言うやつだ!屋台があるぞ!」
「おい、ちょっと待て。あの屋台、何かおかしいぞ」
キリサキの言う通り、その屋台は何処かが奇妙だった。ちゃんと屋台には灯りが燈っているし、暖簾だって掲げられてある。しかし何かがおかしい。
だが腹を空かせたザンキは、キリサキの忠告を無視して一目散に屋台へと駆けていった。
「大将、ジャパニーズヌードル一人前ね!」
暖簾を潜るや否やそう告げるザンキ。だが。
「ありゃ?ちょっと来てくれ。誰も居ないぞ」
そう。キリサキがおかしいと思ったのは人の気配が全く感じられなかったからだ。しかし蕎麦を茹でる大鍋からは熱い湯気が上がっている。
「えっと……セルフサービスの屋台かな?」
「んな訳ねえだろが。ここで蕎麦を作ってた奴はどうした?まさか魔化魍に……」
と、その時。突然灯りがちかちかと点滅を始めた。
「あ、そうか。きっと新しい蛍光灯を買いに行って留守なんだ」
「馬鹿かてめえは!こんな時間に何処の電気屋が開いてるってんだ!それに見ろ!」
キリサキが指差す。そう、この屋台の灯りは古めかしい置行灯だけなのだ。
「あ、これ知ってる!確かサムライの時代に使われてたって照明だろ?でもさ、何で風も無いのに炎が揺れてんだ?」
「……おい。確か七不思議の中に蕎麦がどうのとか言う名前が無かったか?」
厭な予感がしつつキリサキがザンキに尋ねる。
「おお、そういえばあったな!ええと確か……」
暫し考え込んだ後、ザンキが嬉しそうに言った。
「そうだ、思い出した!燈無蕎麦だ!と言う事は俺達は今その蕎麦屋に居るかもしれないという事かっ!」
ふっ、と灯りが消えた。

28 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:45:34 ID:2nMy+XCc0
「あっ!消えた!真っ暗だ!」
「馬鹿、落ち着け!落ち着いて敵の襲撃に備えろ!」
「敵!?く、来るか!」
突然訪れた闇に冷静さを失ったザンキは、キリサキの「敵」という言葉に反応して変身鬼弦を鳴らした。
落雷を受け、屋台が炎上する。その炎の中から斬鬼と、少し髪の毛が焦げたキリサキが現れた。
「おお、明るくなった!さあ魔化魍は何処だ?」
「待てコラ!俺の髪、どうしてくれるんだ!ちりちりになっちまって……ドリフのコントか!あ?」
「なあに、かえって男前になったぜ?」
見え見えの嘘に最早怒る気も失せるキリサキ。
「……で、燈無蕎麦ってのは結局何だったんだ?」
「分からん。まあ人に危害は加えないようだし、退治したって事で良いんじゃね?」
「そんなアバウトな……」
斬鬼はこんな事を言っているが、実際の怪談に登場する燈無蕎麦は人に祟る事があるので御注意下さい。
「それより俺は腹が減ったぞ!もういい!近くの川で魚を捕まえて食べる!」
「ちょっと待て!公害問題が騒がれているこの時期に、都会を流れる川の魚を獲って食うだと?本気か?」
しかしさっき同様キリサキの言葉には耳を傾ける事無く、斬鬼は地図を頼りに近くを流れる川へと向かって行った。
「あいつ鬼の姿のままで行きやがった!くそっ!」
慌てて後を追い掛けるキリサキ。こんな事になるのなら一時の感情に任せて東京になんか来るんじゃなかった、そう後悔してやまないキリサキであった。

29 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:47:14 ID:2nMy+XCc0
キリサキが追いついた時には、斬鬼は既に荷物を川縁に置いて魚を獲っていた。
「あのな、今何時だと思ってるんだ?もう魚だって夢の中だぜ?」
「よく見ろよ、ほら!」
そう言うと斬鬼は、音撃弦・烈雷に何匹かの魚を突き刺して掲げてみせた。
「馬鹿みたいに魚が獲れるぜ!お前も来いよ」
「てめえ音撃弦を銛代わりに使ってんじゃ……ん?」
ふとキリサキの頭の中に、置行堀の話が浮かんできた。
「んな訳ねえよな……」
そう呟きながら預かっていた地図を眺めるキリサキ。置行堀の出現予想地点は錦糸町の近辺だった筈だ。
だがしかし、本来置行堀が出現したとされる錦糸堀という水路は、現在では開発されて無くなっていると聞いている。という事は。
(水辺……魚……また厭な予感がしてきたぜ)
その辺にしておけ、と言いかけたその時。
「ぬおっ!」
突然斬鬼の足が水中から引っ張られた。続いて不気味な声が周囲に響く。
「置いてけ〜」「置いてけ〜」

30 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:49:11 ID:2nMy+XCc0
キリサキが自らの変身鬼弦を弾いた。濃霧に包まれたキリサキの姿が鬼へと変わる。
「霧咲鬼参上っと。さて、何処だぁ……?」
いつでも戦えるよう構えを取って周囲を見回す霧咲鬼。先程の声の主、すなわち童子と姫を探しているのだ。
「おーい、俺を助けてくれないのかぁ!?」
いつの間にかかなり深い所にまで引き摺り込まれていた斬鬼が、霧咲鬼に助けを求めてくる。
「馬鹿かてめえは!自分の属性を忘れたのか!?」
「あ、そうか」
水中に向かって放電する斬鬼。眩い光が真夜中の川面を照らす。
自分の足首を掴んでいた手が離れたのを確認し、その場から泳いで逃げる斬鬼。一方、川縁では既に霧咲鬼が置行堀の童子と姫を相手に大立ち回りを繰り広げていた。
鬼法術・霧隠で童子と姫の視覚を奪い、一方的に攻撃を決めていく霧咲鬼。殴る、蹴る、頭突きに目潰しとやりたい放題だ。
と、斬鬼の背後の水面から何かが飛び出した。猫だ。猫の姿をした魔化魍が跳びかかってきたのだ。魔化魍に組み付かれる斬鬼。
「猫だぁ?猫が水嫌いってのは万国共通なんだぞ!それなのに川から出てきやがって!」
斬鬼の右肩に猫の魔化魍――置行堀が噛み付いてきた。その瞬間電撃を流し撃退する斬鬼。
「悪戯好きなにゃんこにはお仕置きだ!」
音撃震・雷轟を装着して刃を展開した「烈雷」を置行堀に突き立てると、間髪入れず音撃斬をお見舞いする。
「音撃斬!お腹と背中がくっつくぞ!」
腹を空かせた時の斬鬼はいつもより二割増しで強い。哀れ、物凄ぉく久々に湧いた置行堀は、こんな巫山戯た名前の音撃の前に敗れ去った。
「やべっ、先端に魚を刺したまま音撃を決めちゃった。勿体ねえ……」
見ると、霧咲鬼の方も片が付いたようである。どうやらこの男、素手喧嘩も得意らしく、貸し出された音撃棒は一度も使っていないようだ。

31 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:50:23 ID:2nMy+XCc0
「さてと……狸を追っていたら図らずも七不思議のうちの二つを解決しちまった訳だ」
新しい服に着替えた(キリサキは昼間のうちに浅草界隈で購入しておいた)二人は、会話をしながら狸囃子の出現予想地点へと向かっていた。
「……燈無蕎麦に関しては微妙なところだが、とりあえず当初の予定通り狸囃子を退治したらここへ向かおう」
そう言って地図を指し示すキリサキ。そこは足洗邸の出現予想地点だった。
そこへ、キリサキがよく使っている緊急連絡用の隼型式王子が戻ってきた。キリサキの掌中に舞い落ちた式王子に何か文字が書き込まれている。

『足洗邸で落ち合おう キリサキ、ザンキ』
『了解した カザムキ』

「どうやら無事カザムキさんを見つけて連絡が取れたみたいだな」
式王子を懐に仕舞いながらキリサキが言う。
「けどさ、鳥って鳥目だろ?こんな真夜中によくカザムキさんを見つけられたよな」
感心したようにそう告げるザンキ。
「当たり前だぜ。こいつは陰陽道いざなぎ流自慢の式王子だ。式神なんかと一緒にするんじゃねえ」
ザンキの疑問に対する回答にはなっていないようだが、質問したザンキの方もそれ以上は何も言わなかった。
それからも二人は高知での続きと言わんばかりにロックについて熱く語りながら目的地を目指していた訳だが。
「……しかし気になる。こんな街中にムジナなんて居るのか?」
キリサキが至極真っ当な疑問を口にした。
「だから『七不思議』なんだろ?まあこの回答には納得がいかないようだから俺が分かり易い喩え話をしてやる」
そう言うとザンキは自分の財布の中から一枚の写真を取り出した。近くの街燈の下に移動して見てみると、赤毛でショートヘアの美少女が写っていた。
「モニカ。俺のガールフレンドだ。口癖は『さよなら&グッドラック』」
「それは別れ言葉じゃないのか?」
キリサキの言を無視して話を続けるザンキ。

32 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:53:07 ID:2nMy+XCc0
「あれは彼女と海に行った時の事だ。俺は彼女の運転する車の助手席に乗り、雨上がりの道を走っていた」
「いや、こういう場合男が運転しねえか?それとも伊太利亜ではそれが普通なのか?」
遠い目をしながらザンキは語り続ける。
「車中ではビーチ・ボーイズが流れていたっけ。俺は幸せだった。ずっとこのまま走り続けていたいと思った」
「成る程、好きな人と一緒ならそう思うわな」
「並走するハーレーの後部座席に乗った姉ちゃんが物凄い巨乳でな……」
「おい、ちょっと待てやコラ!デート中だろ?彼女が運転している時に自分は別の女の乳見てたのか?」
と言うか何が言いたいのか全く分からない。とりあえずキリサキは黙って続きを聞く事にした。
「その時、彼女は掛けていた青いサングラスを外すと俺の方に向いてこう言ったんだ」
「いや、注意しろよ。脇見運転は危ないだろが。ただでさえバイクと並走してるってのによ」
どうしても突っ込みを入れてしまう。そうさせる何かがザンキにはある。
「今日はお父っつあんもおっ母さんもお出掛け二人きりなの……と」
「何でそこだけ訛る?お父さんとお母さんでいいだろ」
ザンキに突っ込みを入れても仕方がないのではあろうが。
「だから今日は海辺でたっぷりイイコトをしましょ……そう彼女は微笑を浮かべながら俺に囁いたんだ。嗚呼……」
「ほうほう、それで?」
「海辺で俺達はさっそくイイコト――ゴミ拾いを始めた」
「いや、確かに良い事だけどさ!つーか彼女は何?役所の清掃課の人?」
「作業を終えた後、彼女はこう言ったんだ。この言葉は以降の俺の戦い方に大きな影響を与えた。何度この言葉によって窮地を脱したか……」
話し始めた時、ザンキは確か「喩え話」と言った筈だ。しかしどう聞いても「喩え話」ではない。明らかに脱線している。
(まあいいか。俺も話の続きが気になってきたし……)
キリサキが話の先を促したその時、ぽんぽこぽんという聞き覚えのある音が聞こえてきた。ムジナの腹鼓だ。どうやらいつの間にか目的地に着いていたらしい。
「話は後だ。行くぜ!」
続きが気になってしょうがないキリサキを置いて、ザンキは鬼弦を鳴らしながら音のする方向へと駆けていった。

33 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:54:19 ID:2nMy+XCc0
「そりゃあ!音撃打!え〜と……もうネタ切れ!」
斬鬼の音撃打が最後の一体を仕留めた。彼は音撃打を決める度にいちいち即興で考えた技の名前を叫んでいたのだが、とうとうネタ切れになったようだ。
「ふぅ……。おーい、そっちはどうだぁ?」
「終わったぜ。親も倒した」
音撃棒をくるくると回しながら霧咲鬼が答える。毎回三メートル前後の大きさのものが出てくる四国と違い、他地域の親ムジナは等身大のため退治し易い。
「いやぁ、今回の戦いもモニカの言葉に救われたぜ。サンクス、モニカ」
顔の変身を解除したザンキは、そう言うと財布の中から再び写真を取り出してキスしようとする。
「そういやさっきの話の続きだけどよ……」
「あっ!」
突然ザンキが驚きの声を上げた。そして霧咲鬼に向かって申し訳なさそうに告げる。
「すまん、これはトリッシュの写真だった。モニカは黒髪なんだ」
呆れてものも言えない霧咲鬼であった。

地図に示されていた足洗邸の場所へとやって来たザンキとキリサキ。当然人に目撃された時の事を考えて、また新しい服に身を包んでいる。
「まあ、どうせまた変身してオシャカになるんだけどね」
「誰に対する説明だ、そりゃ?」
本当にザンキの言っている事は理解出来ない。
さて、件の足洗邸であるが、確かに地図の場所には大きな、そして老朽化の激しい武家屋敷が立っていた。その今にも朽ち果てそうな門の前にカザムキが立っている。
「あ、カザムキさ〜ん」
カザムキに向かって手を振るザンキ。そんな彼に向かってキリサキが耳打ちする。
「なあ、さっきのモニカちゃんか?彼女が言ったっていう言葉、一体何だったのかそろそろ教えてくれよ」
「分かった分かった。今回の任務が終わったら教えてやるよ。カザムキさ〜ん、送り拍子木と送り提灯ってのはどうなった〜?」
「勿論退治してきたさ。そっちはどうだった?」
狸囃子以外に燈無蕎麦、置行堀を退治してきた旨を伝えるザンキ。

34 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:55:58 ID:2nMy+XCc0
「となると残るは二つか。先ず足洗邸を解決した後、片葉の葦に向かおう」
「その必要は無いよ」
突然の声に驚く三人。見ると、屋敷の屋根の上に童子と姫が立っているのが見える。
「あれが足洗邸の童子と姫?」
「いや、足洗邸は稀種扱いだった筈。童子と姫がいる筈が無い」
とするとあれは片葉の葦の童子と姫だろうか。
「しかし妙だな。片葉の葦の出現予想ポイントは蔵前橋の近くだった筈。何故ここに?」
カザムキが不思議そうに呟く中、童子と姫は屋根に開いた大きな穴の中へと飛び込んでいってしまった。
「なあ、罠の臭いがぷんぷんするんだが……」
明らかに屋敷の中へ入るように仕向けている。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、というやつだ。行くぞ」
率先して門を潜っていくカザムキ。その後を渋々といった感じでザンキが、続いてキリサキが入っていく。
キリサキが入り終えると同時に、門が音を立てて閉まった。そして彼等の眼前には、敷地一面にびっしりと生えた片葉の葦の姿があった。
「足の踏み場も無いとはよく言ったものだな……」
カザムキとザンキが自らの音撃弦を使って片葉の葦を薙ぎ払い、道を作っていく。
片葉の葦は、文字通り葉っぱが片側にしか付いていない葦の事だ。但し、日野巌著「植物怪異伝説新考」という本で片葉の葦発生のメカニズムは科学的に解明されている。
だが、それはあくまでも「植物としての片葉の葦」についてであり、「魔化魍としての片葉の葦」は……。
突然、薙ぎ払われた片葉の葦が三人に向かって飛んできた。しかも葉っぱが鋭利な刃物のように変化している。
「何だこりゃ!」
「ただの植物じゃあ無いと思ったが、こんな風に仕掛けてくるとは!」
それぞれ音撃弦と音撃棒を振るい、飛んでくる片葉の葦を払いながら前へと進み続ける三人。
「走るぞ!屋敷に入るんだ!」
カザムキの号令と共に、一斉に駆け出した。そして屋敷の中に入り込む。どうやら片葉の葦は建物の中までは入ってくる事は出来ないようだ。

35 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:58:39 ID:2nMy+XCc0
屋敷の中は灯り一つ燈っていない。ところどころ破れた屋根から月明かりが差し込んでいる程度だ。
一歩踏み出す毎に床板がぎいぎいと音を立てる。今にも底が抜けてしまいそうな不安を覚える。
「童子と姫は何処だ?それに足洗邸も……」
蜘蛛の巣を払い、黴の臭いに気分を悪くさせながらも、三人は広い屋敷内を探索して回った。余程上手く隠れているのだろう、気配は全く感じられない。
「うおっ!」
ザンキが床に開いていた大穴に落ちそうになって悲鳴を上げる。慌てて手を貸してやるキリサキ。
「足元には気を付けろ」
先行していたカザムキが振り返ってザンキに言う。
「そう言えば足洗邸ってどんな魔化魍なんだ?俺は詳しく知らないんだが」
キリサキがカザムキに尋ねた。
「足洗邸と言うのはな、天井裏から『足を洗え』という声と共に巨大な毛むくじゃらの足が降りてきて、家人が洗ってやるまで暴れ続けるという魔化魍だ」
「迷惑なやつ」
自分の事を棚に上げてザンキが言う。
「見ろ。屋根も床も、至る所穴だらけだろう?おそらく足洗邸が開けた穴だ。大型魔化魍だからな、とりあえず弦で……」
刹那。

36 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 22:59:50 ID:2nMy+XCc0
巨大な足が天井から降ってきてカザムキを踏み潰した。あまりの出来事に目を点にして呆然と眺めるザンキとキリサキ。
長いような短いような、沈黙の時が流れた。
静寂を破るかのように、既に戦闘形態へと化した童子と姫が現れる。
「……はっ!お、おい!俺達も変身するぞ!」
「いや、あのカザムキって人の事を心配しなくてもいいのか……?」
変身鬼弦を鳴らし、本日三度目の変身をしようとするザンキ。
「待て!電撃で家が燃えたらどうすんだ!先ずは俺が……」
変身するとザンキを抱えて屋根に開いた大穴から屋根の上へと跳び出す霧咲鬼。そこで改めてザンキも鬼弦を鳴らし変身する。
「で、足洗邸は何処だ?」
辺りを見回して霧咲鬼が呟く。あれ程の巨体が一瞬にして消え去るとは思えない。
屋根の上に怪童子と妖姫が上がってきた。交戦状態に入る二組。
「どうりゃああああ!」
妖姫の顔面を鷲掴みにして、全力で屋根に叩きつける霧咲鬼。瓦が砕け散り、派手な音を立てて屋根を突き破ると屋敷内へと消えていく二人。
大量の埃が舞い上がる中、月明かりに照らされながら霧咲鬼と妖姫が戦いを続ける。
と、そこへ轟音を立てて足洗邸が攻撃を仕掛けてきた。間一髪でそれを避ける霧咲鬼。
「またか!一体何処に隠れてやがるんだ!」
霧咲鬼の隙を衝いて妖姫が襲い掛かってきた。そこへ屋根の穴から斬鬼が飛び降りてきた。間髪入れず妖姫を殴り飛ばす斬鬼。
「わりぃ、助かったぜ。で、童子は?」
「すまん、逃げられた。って、あぶなァーい!上から襲って来るッ!」
キリサキの真上から足洗邸の大きな足が降ってきた。前転して攻撃を避ける霧咲鬼。
「くそっ!室内じゃ不利だぜ!」
その時、何処からともなく哀愁漂うギターの旋律が聞こえてきた。
「な、何だ?何処だ、何処に居る!」
きょろきょろと周囲を見回し、音の出所を探す霧咲鬼と妖姫。
「居たぞ、あそこだ!」
妖姫が指差す先には大穴が――その穴の向こう、屋根の上には月を背負ってギターを奏でる異形の戦士の姿があった。
「ははははははは!」
突然、異形が笑い出した。続いて名乗りを上げる。
「ズバッと参上、ズバッと解決。人呼んでさすらいのヒーロー!風向鬼!」
そう。屋根の上で恰好付けている男は、先程足洗邸に踏み潰されたまま消息不明になっていた風向鬼その人だった。

37 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 23:02:17 ID:2nMy+XCc0
「いよっ!待ってました!」
拍手をしながら斬鬼が風向鬼へと声を掛ける。
「……いつもああなのか?」
「そう。ある意味うちの支部の名物だな。ちなみにあの人、太鼓と管も使えるんだけど、その都度名乗りが違うんだぜ」
明らかに斬鬼は説明したがっている。
「……教えてくれや」
「管の時あの人は『悪のある所必ず現れ、悪が行われる所必ず行く!正義の戦士、風向鬼!』になるんだ」
「太鼓は?」
「知らん。まだあの人が太鼓を使っている所は見た事が無い」
その時、斬鬼が取り逃がした怪童子が、屋根の上の風向鬼に向かって襲い掛かるのが見えた。
「おい、危ないぞ!」
霧咲鬼が叫ぶ。
「分かっているさ。まあ見てな」
容易く怪童子の攻撃を躱すと、的確に打撃を決めていく風向鬼。そして。
「といやっ!」
掛け声と共に上空高く跳躍すると、怪童子目掛けて急降下する風向鬼。その足先に風が収束していく。
「鬼闘術・疾風脚!」
風を纏った強烈な蹴りが、怪童子の頭部を吹っ飛ばした。爆発し、塵と化す怪童子。
決めポーズを取った風向鬼は更に。

38 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 23:04:02 ID:2nMy+XCc0
「でぇぇい!」
装備帯から鞭を取り出すと、屋根に開いた穴目掛けて勢いよく振るった。
鞭は、穴越しに彼の戦いを見ていた霧咲鬼の脇を通り抜け、再度霧咲鬼を踏み潰そうとしていた足洗邸に絡みつき動きを止めた。
「おおっ!危ねえ……。助かったぜ風向鬼さん」
「礼には及ばんよ。それより今がチャンスだ!」
鞭を力一杯引っ張りながら風向鬼が告げる。その言葉に、斬鬼が刃を展開した「烈雷」を手に飛び掛かっていった。
針のように鋭い足洗邸の剛毛を薙ぎ払うと、刃を突き立てて音撃斬の体勢に入る斬鬼。
「音撃斬!雷神招来!」
今回はちゃんと正式名称を口にするザンキ。ハードロックの音色が鳴り響く。純和風の建築には実に不釣合いだ。
「おお!滾るねぇ!ホンット良い音を出しやがるぜ!」
感心しながら賛辞を送る霧咲鬼の背後に、妖姫が迫る。だが。
「馬鹿が。そう何度も背後を取られてたまるかよ」
霧咲鬼の裏拳が妖姫の顔面に減り込んだ。更に強烈な回し蹴りを相手の側頭部に叩き込む。
「どうした?かかって来いよ、コラ」
拳をバキボキと鳴らしながら妖姫に歩み寄り、容赦無く攻撃を続ける霧咲鬼。
足洗邸と妖姫が爆発四散したのはほぼ同時だった。

39 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 23:05:16 ID:2nMy+XCc0
「おっしゃあ、良い仕事したぜ!」
顔の変身を解除したザンキがにこやかに笑いながら、同じく顔の変身を解除したキリサキの傍に近寄ってくる。
「見ろよ、朝日がディ・モールト綺麗だ。まるで俺達の勝利を祝福しているかのようだぜ」
そう言って昇る朝日を指差すザンキ。朝焼けに包まれて街が動き出している。
「うん?……って、ちょっと待て!よく見ろ!」
「え?何が?……おや、何か変だな」
「変に決まってるだろうが!屋敷が消えちまってるじゃねえか!」
屋敷が跡形も無く消えてしまっているのだ。自分達だけを残して。
「お前、テレポートなんてイカした能力持ってたのか?」
「俺はフーディーニか!そんな訳ねえだろうが、常識的に考えて!」
では何故屋敷は忽然と消えてしまったのだろうか。そこへ、やはり顔の変身を解除したカザムキがやって来る。
「おそらくこいつは、あの童子と姫が作り出した幻――言うなれば『屋敷幽霊』だったんだろうな」
「屋敷幽霊?幽霊屋敷じゃなく?」
「そう。屋敷そのものが幽霊みたいなものだったんだ。そうでなければ、あんな怪しげな屋敷が長い間放置されている筈がない」
成る程、屋敷に辿り着いた時はそんな事を考える余裕も無かったが、冷静に考えると確かにおかしい。
「じゃあ燈無蕎麦も同じ様なもんだったのかなぁ。燃えちゃったけど」
おそらくザンキの言う通りだろう。

40 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 23:07:25 ID:2nMy+XCc0
「でもよ、俺は何か納得が出来ねえな。他の魔化魍と比べて存在意義も行動目的も何一つ分からねえ」
海や川、山野で凶暴な魔化魍を相手に日夜戦っているキリサキにしてみれば、今回の本所七不思議の魔化魍は全くもって理解に苦しむ存在だ。
しかしそれに対しカザムキはたった一言。
「だから『七不思議』なんじゃないか」
笑いながらそう告げると、さっさと帰り支度を始めてしまった。結局はその一言に尽きるようだ。不本意ながらもその説明で納得する事にしたキリサキ。ザンキは最初から深く考えていない。
「そうだ、忘れる前に言っとくぜ。さっきのモニカちゃんの話、ちゃんと続きを話してもらうからな」
約束だったろ、とザンキに詰め寄るキリサキ。
「心配すんなって。ちゃんと話してやるからさぁ。ちょっとこれ持ってて」
そう言って「烈雷」をキリサキに手渡すと、ザンキはまたしても財布の中から一枚の写真を取り出した。
「これこれ。この写真の女性がモニカ。それでな、モニカが……」
「待て。確か黒髪だと言ったよな。この写真の女、ブロンドじゃねえか」
確かに、写真にはロングヘアーの金髪美女が写っている。
「OH〜!すまん、それはデイジーの写真だった。あれ?モニカの写真は何処だ?」
あれでもない、これでもないと言いながら財布から大量の写真を取り出すザンキ。どうやったらそんなに大量の写真が財布に収まると言うのか。
「おい……。てめえどんだけ彼女が居るんだよ」
「全世界の保有している核弾頭の数より多い!」
そうきっぱりと告げると、尚もモニカの写真を探し始めるザンキ。
こりゃ時間が掛かるな……。そう呟くとキリサキはカザムキ同様、さっさと帰り支度を始めるのだった。

41 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 23:09:32 ID:2nMy+XCc0
その日のうちにキリサキは四国へと帰る事になった。四国支部はいつもぎりぎりの人数で切り盛りしているため、これ以上穴を開ける訳にはいかない。席が取れたのは実に幸運だった。
空港へはザンキが見送りに来ていた。
「今度は俺が見送られる側になっちまったな……」
支部長以下、支部の仲間達のために買い込んだ土産を手に、キリサキが言う。
「じゃあな。今度は正式に休みを取ってから来いよ。一緒に新宿や六本木にでも遊びに行こうぜ」
「そうだな」
あの時同様、互いの拳を突き出して軽く当てあう。そろそろ行かなければならない。
「ところで、だ。いい加減モニカちゃんの話の続きを教えやがれ。気になって仕方がねえ」
「分かってるって。……ほら」
そう言って二つ折りにした紙片を渡すザンキ。
「長い話になりそうだからな、それに書いておいた。ついでにモニカの写真も入れておいたぜ」
「良いのかよ、貰っちまって?」
「心配すんなって。ネガが残ってるから幾らでも焼き増し出来る」
機内で写真を見て散々羨ましがってくれ。そう言ってザンキは嬉しそうに笑った。

42 :仮面ライダー高鬼番外編「愚痴がきこえる 東京編」:2007/02/10(土) 23:11:07 ID:2nMy+XCc0
機内で、キリサキはザンキから渡された紙片に書かれていた文章を読み、怒りに震えていた。
紙片にはでかでかとこう書かれていた。
『長々と与太話に付き合ってくれてサンクス、キリサキ』と。
あの勿体ぶった話は全部その場限りの嘘だったのだ。こうなるとあの女性達の写真も怪しい。誰かを担ぐために予め仕込んでおいたものかもしれない。
(やられた……。紙片が出てきた時点で疑うべきだった)
これでは先日と同じではないか!ザンキに対する怒りがどんどん大きくなっていく。隣の座席に座っているサラリーマン風の男が、不審そうにキリサキを見ている。
と、何かがキリサキの手から落ちた。写真だ。
(モニカの写真とか言ってたが……話が与太だった以上、女の写真な訳無いよな)
また腹が立つであろう事を承知で、キリサキは写真を見た。
それは、昨日カザムキに下町を案内してもらっていた時に撮られたと思しき、キリサキの写ったポラロイド写真だった。
(何だこりゃ?いつの間に……)
その写真の隅には、マジックでこう書かれてあった。

『また来いよ 約束だぞ ザンキ』

「……へっ」
大事そうに写真を仕舞うキリサキ。ザンキに対する怒りも消え失せた。
四国支部一の問題児は、大空の上で関東支部一の問題児との再会の日を楽しみにするのであった。 了

番外編イメージソング
モニカ
作詞 三浦徳子  作曲 NOBODY  編曲 大村雅朗  歌 吉川晃司

真夜中のスコール Backミラーふいにのぞけば
赤い電話Boxの中から 君とあいつ出て来た Sea Side Avenue
Oh! Thanks,Thanks,Thanks,Thanks モニカ Thanks,Thanks,Thanks 八月のSad Song
ムム…忘れないさ ムム…今年の夏
ムム…この街さえダイヤモンドにきらめいた
何もかもが君のせいさ Oh!モニカ

43 :名無しより愛をこめて:2007/02/10(土) 23:44:26 ID:RCkgZCjq0
70年代の話のイメージソングが80年代ってのも先取り大好きな先代に合っている気がしてWW

44 :皇城の〜の中の人 ◆M4hWSo7coo :2007/02/12(月) 17:43:48 ID:W6I+LiEB0
思うところ在りまして、前スレ>>448以降を以下のように修正させていただきます。
申し訳有りませんが宜しくお願いいたします。

>>447より

45 :『皇城の守護鬼』  一之巻 「飛沫く鬼」 ◆M4hWSo7coo :2007/02/12(月) 17:53:46 ID:W6I+LiEB0

 それ以上何も言わせまいとするかのように長を呼ばわる。ハバキと肇はいつの間にか二
人の後ろに席を移し、モニターに食い入っていた。しゃくった顎で指した画像は、清海の
倉庫街を映し出している。範囲指定をしてやりマウスをクリックすると無人の埠頭がモニ
タに大写しとなった。

「見事にいないね…」

 無表情。事実だけを淡々と。
 高みからの映像に人影は皆無であった。倉庫街とはいえコンビニや食堂などの店舗もあ
る。通常百人からの人間が働いているはず。
 
「失態どころの騒ぎではない」

 ハバキが吐き捨てた。蒼白である。
 ハバキだけではない。皆が同じ思いだった。街中で、しかも本拠のほんの眼と鼻の先で、
大量の一般人が魔化魍に食われてしまった可能性が極めて高い。失態での一言片付くよう
な問題ではなかった。

「彼奴らこのエリアのどこに潜伏している?人ひとり消えれば連絡も途絶える。誰かが不
審に思うはずだ。歩からの報告はなにか」

 淡々と問う。

「取り立てて変わったことは…まてよ……昨晩から豊海の倉庫と電話が通じないとヤマト
の人間が云っていた気がするな。回線が切断しているらしい」

 同じような口調でヒラメキが返えした。この場合のヤマトとはヤマト運輸を指す。
 渦巻く感情を押し殺すも御所守としての勤め。迷ったり嘆いている間にも被害は増え続
けているかもしれないのだ。後悔するならば魔化魍の殲滅を完了してからにすればいい。
そういうことなのだろう。

46 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/12(月) 19:45:08 ID:P1G3uSb0O
――瞬過終闘 「五 剛鬼 《抗う信念(つばさ)》」

幾分回復したとはいえ、弾鬼は未だ戦えはしない。ゴウキは変身音叉『音鋼』を展開して左の握り拳に打ちつけた。
「‥‥飛ぶぞ!」
蒼い炎に包まれるゴウキは弾鬼を抱えて跳躍し、二人が立っていた空間には弾丸が飛び交っていた。黒い集団は瞬時に銃口を持ち上げ、青空を背にした蒼い炎目がけて再び構えた。
変身完了と同時に、剛鬼は空中から更に上空へと弾鬼を放り投げ、自身は両手に構えた音撃棒『金剛』で銃弾を防ぎながら着地。
敵は20数体、剛鬼の前後左右に5、6人が小隊を組んで方位している。
腰を屈めて再び跳躍、と見せて集団の視界を一瞬混乱させた隙に、装備帯から鷲型ディスクアニマル『浅葱鷲』を取り外し、前方の敵へ手裏剣のように投げつけた。
浅葱鷲は2体の肩と首筋を切り裂くと動物形態へ変形して急旋回、残る3体の急所を狙い急降下攻撃を繰り返す。
剛鬼は最も寄り固まっていた左の集団へ走り出すと、両手の金剛をブーメランの様に投げ放ち、空手となった拳に鬼爪を伸ばした。
微かに首を回すと、前方に配置していた3人は浅葱鷲に苦戦している。個々の能力は高くなく、警戒しなければならないのは謎の弾丸だけのようだった。

「これは‥‥」
たちばなの居間にあるテレビの画面は、動かないカメラで『二人』とざわめき続ける政治家達を映し続けていた。
「‥‥視聴率50%は確実でしょう。日本人の半数以上が証人になりますよ‥‥ 歴史が変わる瞬間のね」
勢地郎は目を疑った。『彼等』は決して姿を見せない。『彼等』は、誰もが知らずにいる存在のはずだった。
しかし現に『二人』は、国会襲撃という最も大胆且つ確実な術で、その存在を露見させ、『何か』を始めようとしている。
そして、テレビを利用するという事を知っており、更にその中継が途絶えずにいる事を知っていたこの男もまた、その『何か』の一部を任されているに違いない。
居間では男だけが座っており、イブキ達は立ったまま画面を注視し続けている。
勢地郎は右手に持ったままの名刺に再び視線を傾け、男の名前を確認した。
『日高 博昭』
やはり勢地郎が知らぬ名だったが、隣に立っていたみどりだけが、名刺を見た後直ぐ様、男―― 日高博昭の顔に目をやった。

47 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/12(月) 19:49:40 ID:P1G3uSb0O
「さて、もう宜しいでしょう」
イブキとバンキに振り向くと、日高はテレビを消し、立ち上がった。
「政府がどれだけ鈍重でも、今夜には発表されます。『鬼』や『魔化魍』、『猛士』の事がね‥‥」

剛鬼は鬼爪と金剛の連続攻撃で集団を倒すと再び跳躍し、弾鬼を抱えて残り人数を確認した。
「12人か‥‥」
瞬く間に仲間を倒され、黒い集団の中には後退りする者もいた。剛鬼は弾鬼を降ろすと、片手に纏めていた金剛を構え直す。
「逃げるなよ。こっちは可愛い後輩がやられてるんだ」
静かな威圧感にたじろぎ、集団の一番前に立つ一人が、ガトリングガンから手を離した。
「‥‥逃走理由・該当‥‥無」
振り向く戦闘員達は、その声に左右へ飛び退く。拓かれた敵陣の先には、黒いレザースーツに巨躯を包み、短髪の下に日本人離れした彫りの深い無表情を備えた男が立っていた。
剛鬼は武器を構え直した。15年間の戦闘経験は、この相手が危険極まりないと警鐘を止めない。
「‥‥目標発見。新目標・剛田剛、コードネーム:剛鬼」
剛鬼と対峙する男は、感情を見せぬ声で呟くと、灰色の風を纏った。

「‥‥どういう事だ? あなたは何を知っていて、何を始めるつもりだ!?」
テレビの音が消えた居間の静寂をイブキの叫びが破り捨てた。激高するイブキの肩に手を置きと日高の前に立ち、バンキは眼鏡を直して静かに言った。
「‥‥落ち着くんだ」
イブキは肩に乗っているバンキの手に一瞬力が入り、自分を退かせた事に気付いた。
「イブキ君、この人が知っているのは、『鬼』に関わる全てだろう。‥‥恐らく貴方は、『猛士』の協力者、或いは協力者だった方だ」
日高は頷くと、説明を続けようとするバンキを無言で促す。
「我々『鬼』の武器、『猛士』の情報。そして『魔化魍』の驚異‥‥ それらを総括・整理し、一種の戦闘組織である『猛士』に直結する政府機関は防衛省以外にない」
乾いた拍手を打ち、日高はバンキに一歩近づく。そして笑みを消さぬ口元から変わらぬ調子で声を発した。
「流石は関東一、いや鬼の中で一番聡明なバンキ君。君達の『裏』であり、世間の『表』に位置するのが私だ。益々、君に『鬼』を辞めて頂きたくなったよ‥‥」
日高は、間を置き、冷たく言った。
「‥‥殺すのは、惜しいからね」

続く

48 :名無しより愛をこめて:2007/02/12(月) 23:21:41 ID:V70NLN/U0
ヒビキ兄登場?
だとしたら裏設定の拾いかたがオミゴト
(写真集「魂」記載の「ヒビキには一般人として暮らす兄がいる」という設定)

49 :見習いメインストーリー:2007/02/13(火) 22:04:28 ID:N561KWHw0
前回は前スレ>>670から

見習いメインストーリー 最終章「血」

三十七之巻「舞戻る鴉」

 一年を予定していた純友と大洋の見習い研修期間も、残すところあと三か月となった。
 十一月に入り、今月の学科研修のテーマは「魔化魍」になった。
 日曜日、「たちばな」地下の研究室で、今日も二人の少年を前にして滝澤みどりの講義が続く。
「魔化魍を育てる『童子』と『姫』の存在はもう知ってると思うけど、彼らは皆同じ顔をして
います。それから、これも共通して言えることだけど、童子は女性の声、姫は男性の声をして
います。ただ、育てる魔化魍の種別によって、変身後の姿に様々な特徴があります」
 ホワイトボードに写真を張っていき、みどりは説明を続けた。
「いま見てもらってるのが、変身後の『怪童子』と『妖姫』なんだけど」
 みどりは、複数の怪童子と妖姫の写真を指して言った。
「ね。それぞれ外見が違うでしょ? バケガニの怪童子と妖姫だと腕も蟹みたいだったりとか──
見た目の他にも、ヤマアラシの童子と姫は口から針を飛ばしたりとか、育てる魔化魍と関連のある
能力を持っているのね」

 これまでは、学科研修が終わると、展示室に移動して音叉や音撃武器を使った実技研修を行って
いたが、今日の二人の実技研修は、続けて机上で行われた。
 純友と大洋の前に、それぞれノートパソコンが準備され、二人はみどりの指示に従って操作し、
ディスプレイ上に「魔化魍予測システム」という画面を表示させた。
「うわ、おれこういうの苦手……」
 大洋が顔をしかめて言った。
「ぼくは、こういうの得意かも」
 毎回実技研修では苦労が絶えなかったので、キーボード操作だけで済みそうな内容だとわかり、
純友はほっとして言った。

50 :見習いメインストーリー:2007/02/13(火) 22:05:52 ID:N561KWHw0
 みどりは、ホワイトボードに気温、湿度、天候などの気象データを書いてから言った。
「二人とも、これを入力してみて」
 純友たちが気象データを入力していき、最後に「予測開始」のボタンをクリックすると、
純友のパソコンのディスプレイには、出現が予測される魔化魍の種別が表示された。
一方、大洋の前のディスプレイ上には、警告音と共にエラーメッセージが表示されていた。
「うわ。なんだよこれ」
 また大洋が顔をしかめて言った。純友はエラーメッセージの出たディスプレイを覗き込み、
大洋が誤入力した箇所を指摘していった。みどりは、その様子を見て笑って言った。
「なんだかいつもと逆だね〜」
「ケータイなら打ち慣れてるんスけどね……パソコンとかあんま使わねえし」
 大洋は頭をかきながら苦い顔で言った。

 その日の研修が終わると、みどりは純友に銀色のディスクを一枚差し出した。
「はい、どうぞ」
「え……?」
 純友は、パーツの継ぎ目が描くディスク表面の模様を見て言った。
「みどりさん、これ──」
「うん、消炭鴉。先月の件で、君が持ってないとこのディスクは『あいつら』に反応しないって
わかったから……ちゃんと本部の許可を得て、やっぱり君が持っていてもいいってことになったの」
「ホ……ホントですか!?」
 純友は顔を輝かせて言った。嬉しさのあまり、純友の目からみるみる涙が溢れ出してきた。
 大洋が、その様子を見てぼそっと言った。

51 :見習いメインストーリー:2007/02/13(火) 22:07:10 ID:N561KWHw0
「オマエって……悲しくても嬉しくても結局泣くのな」
 その言葉も耳に入らず、純友はディスクに紐を通して首にかけ、嬉しそうな顔をした。
「──ただし、そのディスクに何か反応があったら、すぐ関東支部に連絡を入れること」
 みどりは、紐に通したディスクを、嬉し涙を浮かべて見ている純友に言った。
「絶対、危険な真似はしちゃダメよ。いい?」
「はい!……はい!」
 ただただ、愛着の深いディスクアニマルが自分の手元に戻ってきたことがうれしくて、
純友はみどりの注意に対して何度も返事をした。

 その日の「たちばな」からの帰り道、純友は大洋に言った。
「──このディスクは、先月に群馬で見た、あの橘さんに似たクグツにも反応したんだ。
これがあれば、あのクグツを見つけられるかも」
「なんだよオマエ、さっきはみどりさんが危ない事するなって言ったらスッゲー返事してたのに」
「ああ……あの時は、とにかく凄い嬉しくて──だって、消炭鴉が戻ってきたんだよ!」
 純友は懐から紐にかけたディスクを取り出して、嬉しくてたまらない様子で言った。
「あー……わかったわかった」
 純友は、大洋にそう言われて少し落ち着いてから、真面目な顔になって言った。
「もちろん、あの白クグツ以外に近づくつもりはないよ。だけど……あのクグツだけは……
あれは、橘さんかもしれないんだ」
「多美ちゃん……やっぱ多美ちゃんなのか? その白クグツ」
「なんとかして、確かめたいんだけど……」
 純友は、手にしたディスクアニマルに視線を落として言った。

52 :見習いメインストーリー:2007/02/13(火) 22:08:32 ID:N561KWHw0
 しかし、ディスクが反応することもなく、時間は過ぎていった。
 何週かみどりの魔化魍に関する講義が続いたが、その間、消炭鴉はまったく変化を見せなかった。
 魔化魍の種別、発生条件等の学科研修と、パソコンを用いた魔化魍出現の予測システムの操作
実習を終え、純友と大洋は「たちばな」を後にした。
 その帰り道。
「わッ!」
 道端で、大洋と並んで歩く純友が情けない悲鳴を上げた。「たちばな」を出ていくらも経たない
うちに、純友の懐にあるディスクが震動し始めていた。
「オマエいい加減慣れろよ。──うわ、マズい」
 大洋は純友を路地裏に引っ張り込んだ。角を曲がってこちらに向ってくる、立花勢地郎の姿が
遠くに見えたためだった。
「おやっさんがこっちに来てる」
 大洋が声をひそめて言う。純友も小声になって言った。
「とりあえず、ぼくたちだけでディスクの引っ張る方向に行ってみよう。で、行った先にいるのが
あの白クグツだったら、なんとかして橘さんかどうか確認するんだ。それ以外のやつがいたら、
関東支部に報告しよう」
「オウ」
 勢地郎が通り過ぎるのを待ち、二人は路地裏から出た。純友は首から下げているディスクが
ひとりでに動く方向に向けて歩き出した。その先に遠く、勢地郎の背中が見え、大洋は言った。
「なんか、おやっさんを尾行してるみたいじゃね?」
「ていうか、事務局長もぼくたちと同じ場所に向っているみたいだ……」
 二人はディスクが示す方向へと進んでいった。不思議と、勢地郎が向う先とそれは一致していた。

三十七之巻「舞戻る鴉」了

53 :見習いメインストーリー:2007/02/13(火) 22:09:42 ID:N561KWHw0
次回予告

『知っていますね? オロチを』
「ぼくたちが黒クグツに会った時のこと覚えてる? あの時に聞いた声と同じだ」
『あの時も、群馬の時も、その式神がクグツの居場所を突き止めていたというわけか』
「ふざけんな。コイツだけが、多美ちゃんを見つける手掛りなんだ。オマエらに渡せるか」

見習いメインストーリー 三十八之巻「纏う黒衣」

54 :『皇城の守護鬼』 一之巻 「飛沫く鬼」 捌、:2007/02/13(火) 23:01:49 ID:mQYvJz4z0
>>45より

 葛島は戦慄した。理屈では分かっているがそれで納得のいく状況ではない。これが御所
守の任務なのか。針の穴ほどの綻びが想像を絶する被害を生み出す。この一団は、これま
でどのような惨状を経験してきたのか。

「シブキ、史郎。B武装。二分以内に上がって来い。肇、NTTに裏を取れ」

 インターホン越しに呼ばわれば、返事の代わりに何かをひっくり返す音が聞え、続いて
慌しい足音。
 肇は無言でハバキのデスクへ歩み寄り、NTT銀座局の短縮回線を叩いた。二秒ほどで
会話が始まる。葛嶋は己の端末に向き直り報告記録の検索を始めている。御所守の切り替
えの早さに戦慄を覚えながらも対応してきつつあった。
 ヒラメキが埋立地区における、NTTの埋設ケーブルの回線図と地下水路図を呼び出し
モニタの画像と重ねあわせた。隅田川の川底の更に下を太い下水管が通り、それに沿うよ
うにインフラの集合パイプが走る。川を渡るとそれは網に眼のように分岐し、各家庭やオ
フィス、公衆電話へと伸びてゆく。
 昨夜戦ったのが八丁堀地下。豊海町に潜伏しているとなると、地上での目撃報告の無い
ことからすれば有楽町線から大江戸線を経由して埋立地に入ったことになる。
 普通なら有楽町を抜けて皇城へ侵入するルートを取るのだが、その裏をかいてきている。
 狡猾であった。
 勝どき駅へ到達する前にどこかのダクトから下水に移り、埠頭へを抜けた確立が高い。
もっとも、仮に逃走に地上ルートを取ったとしても、ショウケラはその存在を消し去るこ
とが出来る能力を持っているため、一般人の「歩」に発見できた可能性は限りなくゼロに
近かったはずだ。地上に放っていた音式の探索網に引っかからなかったとしても不思議で
はない。

55 :『皇城の守護鬼』 一之巻 「飛沫く鬼」 捌、:2007/02/13(火) 23:03:06 ID:mQYvJz4z0
「爬虫類型(ショウケラ)の育成環境からいって、冷凍倉庫内に潜伏していることはまず
ありえまい。」
「そりゃまぁそうですが…地下は捜索済みですぜ?痕跡は無かった」
「我々はすでに裏を繋(かか)れている。見落としがあったか、調べ方が足らんのだ。そ
れに相手はショウケラだ」
「御衣……だったらあとは『豊海−芝浦トンネル』の現場ですか。それも考えにくいので
は?あらゆる意味で人が多すぎです」
「巡回路と繋がっていないのはこのエリアでは唯一そこだけだ。可能性は高い」
「当たりかも知れません。たった今第三管区・仁藤三等海尉から入ったメールです。
その現場は先週から休工になっているそうです」

 ハバキとヒラメキの会話に葛島が割り込んだ。
 あの莫迦野郎、と髭面が頭を抱える。

「御所守はこれより非常シフトに入る。全員出陣準備」

 鬼の形相のハバキがいた。

56 :皇城の〜 ◆COP3Lfy.8w :2007/02/13(火) 23:12:13 ID:mQYvJz4z0
トリップ変更します。

間が空いてしまって恐縮ですが、上記のように加筆修正いたしました。
後半物々しさが表現できていれば幸いです。

皇城でした

57 :名無しより愛をこめて:2007/02/15(木) 07:35:57 ID:rJCN0e8s0
用語集ってどうなったん?

58 :名無しより愛をこめて:2007/02/15(木) 12:21:53 ID:3eEGZCTk0
皇城様

つまらない突っ込みになるかもしれませんが、>55の「御衣」は文脈からすると、「御意」と書くのがアリかと思うのですが…。
如何でしょうか?
ひょっとすると、特別な意味でこちらをご使用なのか、とも思ったのですが。


59 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/15(木) 21:08:14 ID:Wj4rcsXtO
――瞬過終闘 『六 察鬼 《覆される世界(たたかい)》』

剛鬼と対峙する『影』。その身体は澱みなき純白をしており、胴体と足首、両肩に漆黒の装甲を身につけていた。
右肩に装備されている大砲は装甲の大きく反り返る突起に支えられ固定されている。
頭部には三本の鋭き角、ゴーグル状の眼と思われる左側、クリアーレッドのスコープは、常に何らかの情報を受信し、光の文字となって記され続けていた。
剛鬼は巨漢だが、白い『影』はそれより一回りも大きい。音撃棒を持つ手が震える。自分の中を恐怖が通り過ぎ、また戻ってくる。
「‥‥突っ込むか」
そう呟くと、剛鬼は爪先に力を込めて砂利を蹴る。自分を上回る巨躯ならば、力勝負は明らかに不利。僅かに勝れるであろう速さで撹乱しながら、攻撃のチャンスを待つ事にした。
『影』は直立不動だったが、剛鬼が動くと右手を大砲のグリップまで挙げた。威力は途方も無いだろうが、照準合わせ・発射・反動の動作全てもまた計り知れない。
「ぅおらぁっ!」
剛鬼の振りかぶった剛力が、『影』の左からその頭部に炸裂する、その瞬間――
剛鬼の身体が弾き飛ばされ、起き上がる胴体は三発の弾痕から血を流していた。
「‥‥音撃管‥‥!?」
『影』の右手には、音撃管と同形状の銃が握られていた。それは取り外された、大砲のグリップ部分だった。
「‥‥対鬼音撃管『破戒』、発射・3、命中・3‥‥」
起き上がった剛鬼に向けられた破戒は、更に三回銃声を生み出した。

たちばなの店内まで戻った日高は、待たせてあった女と男を促して戸を開けた。
「もう一度だけ‥‥ 我々は『君達』を殺したくはない。今日は時間がないんで失礼させて頂くよ」
イブキは店を出ようとする日高の後頭部を睨みつけながら、低い声で言った。彼が握り締める拳の震えに気づいたバンキは、口を挟まずイブキの言葉に任せた。
「それは警告か? ‥‥それとも、脅しか?」

60 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/15(木) 21:09:39 ID:Wj4rcsXtO
日高は背を向けたままで答える。
「両方さ。我々は『君達』の能力を買っている。些細な感情で無駄にしたくない。それに抵抗したとしても、闘鬼親子や勝鬼、弾鬼の二の舞だ」
日高は振り返り、勢地郎に笑みのままで更なる警告を続けた。
「昔の戦力には頼らない方が良いですよ。元剛鬼の家族が悲しむのも時間の問題だ。我々は『鬼』の全てを知っている‥‥ 失念されぬよう、ご注意を‥‥」
店から出ていった三人を、ただ一人みどりが追った。通りの先に停めてあった高級車に乗り込もうとする日高は彼女に気づき、閉めかけたドアの隙間から立ち上がった。
「‥‥貴方の事、『あの人』は知ってるの?」
弾ませた息に混じりながら放たれたみどりの問いに答えた日高は、作り笑いをしていなかった。
「‥‥さてね。実は私も『奴』の所在を掴めないでいる。どこかで死んでいるか、浮浪者にでもなったか‥‥」
みどり自身もまた、『彼』の消息を3年前から知らない。
「元々仲が良かった兄弟じゃない。私自身は『奴』に『ただの公務員』としか言ってない。向こうも『オリエンテーション』と『人助け』としか職業を教えなかった。馬鹿な男だ」
日高達を乗せた車が見えなくなると、みどりは晴れた空を仰いで呟いた。
「帰ってきて‥‥ヒビキ君‥‥」

勝ち目は、無い。
六ヶ所から血を流す身体は、特殊弾の影響で力を失い、『影』は大砲の下部に音撃管らしき銃をセットして構える。
剛鬼の強さに圧倒された黒い戦闘集団もまた、ガトリングガンを構え直して剛鬼を扇状に取り囲みつつあった。
「目標・反撃確率‥‥13%、攻撃回避確率‥‥7%。 ‥‥対鬼音撃砲『戒滅』、発射準備・完了」
『影』が構えた大砲・戒滅から、巨大な衝撃波が剛鬼に発射された時――
「うおおおおっ!!」
弾鬼が重傷の身体を懸命に奮い立たせ、『影』に背からしがみついた。砲身が傾き、衝撃波は剛鬼の右に構えていた集団2人を直撃した。

61 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/15(木) 21:13:11 ID:Wj4rcsXtO
「弾鬼!!」
「剛鬼さん! やっちまえ!!」
立ち上がった剛鬼は音撃鼓『金剛』を『影』の腹部に投げ放ち、剛力を振りかぶった。
「音撃打! 『剛腕無双』の型!!」
幾度となく魔化魍達を葬ってきた必殺技が、『影』の腹部で展開された金剛に叩き込まれた。
「‥‥」
一瞬の静寂。
そして無数の銃声が弾鬼を無傷の『影』から引き剥がし、金剛は砂利の上に落ちた。弾鬼は血塗れとなり倒れ自らの血の海で沈黙し、剛鬼は至近距離から『影』の大砲を浴びた。
「‥‥装甲破損率・2%、対音撃用防御音波・正常稼働‥‥ 目標・弾鬼、心音・‥‥停止‥‥」
崩れ落ちる剛鬼は、両手を伸ばしながら俯せに倒れた。辛うじて顔を上げると、視界には破壊された剛力のグリップを握る、ボロボロの両手があった。
「‥‥目標・剛鬼、反撃確率・0%、心音・微弱‥‥」
「‥‥まだだ‥‥」
不屈の魂は壊れた身体を突き動かし、装備帯の背から金色の小型音撃弦『釈迦』を抜き取らせた。
「『鬼』を‥‥舐めるな!!」
起き上がりと同時に、釈迦を横薙ぎに振る剛鬼。
「‥‥対鬼音撃射・『冥凶始遂』・準備」
『影』は大砲を肩から降ろし、獣の顔を模した巨大な音撃鳴とマウスピースを取りつけ、獣の口を剛鬼に向けた。
「‥‥発射」
砕かれる釈迦を見、『影』の声を聞き、全身の痛みに悶え、広がる血の味に口を歪め、ガトリングガンの硝煙を嗅ぎながら、
音撃形態となった大砲から発せられた謎の音波の中に、剛鬼は静かに消えていった――

続く

62 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/15(木) 21:22:21 ID:Wj4rcsXtO
【今日の裁鬼さん】
「石割! 待ってくれ!」
「いいえ! あなたにはもう愛想が尽きました! 実家に帰らせて頂きます!!」
「待ってくれ‥‥ お前がいないと‥‥ 誰が‥‥ 誰が‥‥」
「‥‥裁鬼さん‥‥‥‥」
「誰が‥‥ 俺を病院に連れていってくれるんだ!?」
「‥‥」
○石割 【三行半】 裁鬼●

今日の裁鬼さん 第4回 終わり

【訂正】
剛鬼の音撃棒は『剛力』です。S.I.C.ムックのバカヤロー。

63 :名無しより愛をこめて:2007/02/15(木) 22:41:58 ID:xAjlEnIrO
裁鬼新作読もうとしたらNHK教育で江戸文化妖怪やってるw
豆腐小僧可愛い!
妖怪が男を化かす花魁を恐がる件は上手いなぁ

64 :見習いメインストーリー:2007/02/16(金) 01:17:32 ID:ZYUfvIQ30
前回は>>49から

三十八之巻「纏う黒衣」

 何かに導かれるように、勢地郎は静寂につつまれた街外れにやってきた。そして、廃工場前の
薄暗いトンネルに入ると、反対側の出口付近にいる和装の男女に気づいて足を止めた。
 ──その様子を、純友と大洋はトンネルの入り口付近から窺っていた。
「あいつら──」
 純友は、ひそめた声で大洋に言った。
「群馬で白クグツを見つけた時に、白クグツをつかまえに来たやつらだ」
 大洋は、彼らの「顔」だけは見覚えがあった。
「おれには、あいつらが童子と姫に見えるぜ。カッコは違うけど、まったく同じツラだ」
「あいつらと事務局長が会っているだなんて……どうして」
 幸いにも、トンネルの中に響く勢地郎と男女の声は、純友たちのところまで聴こえてきた。
「君たちか、私をここに呼んだのは」
 勢地郎が言うと、男は人ならぬ響きを帯びた声で──童子とは違い、性別通りの声で──答えた。
『コダマの森は前兆に過ぎない。……オロチが現れる。その時が近づいている』
『知っていますね? オロチを』
 こちらも、姫とは違い性別通りの声で話す女の問いに、勢地郎は頷いたようだった。
『ならば鬼を集めろ。さもなくば──』
 言い淀んでから、決然と男は言った。
『すべてが滅ぶ』
 陰からその様子を窺っていた純友は、小声で大洋に言った。
「思い出した。群馬で出くわした時も、どこかで聞いた声だと思っていたんだけど──大洋。
半年前、ぼくたちが黒クグツに会った時のこと覚えてる? あの時に聞いた声と同じだ」
「あの時も、こんなトンネルの中だったな。……ん? あの黒いヤツ、喋ってたっけ?」

65 :見習いメインストーリー:2007/02/16(金) 01:19:37 ID:ZYUfvIQ30
「うん……頭の中に直接響くような声だった」
 二人が話しているところに、男の鋭い声が飛んだ。
『──誰だ、そこに隠れているのはッ! 出て来い!!』
 同時に、二人の所まで光が──男の掌から発された破壊光線が迫ってきた。
 純友たちのすぐそばのトンネルの壁が派手な音を立てて爆発した。
 勢地郎が振り返り、破壊光線によって巨大な穴が穿たれた壁のそばにいる二人を発見した。
「君たち……!」
 仕方なく純友と大洋はトンネルの入り口に姿を現した。
「すみません、事務局長」
 純友はおどおどしながら言った。
「ぼ、ぼくたち、探している人がいまして、それで、その……」
「すぐにここから立ち去りなさい」
 純友の言葉は聞かず、鋭い声で勢地郎は言った。
『おまえは……群馬で鬼と一緒にいた子供だな』
 大洋の横で足をがくがくさせている純友を見て、男が言った。その視線が、純友の胸元に下がり、
激しく震えている銀色の円盤を認めて言った。
『思い出したぞ。半年前、クグツが鬼の弟子を始末しようとした時にもおまえが──いや、
その音式神がその場にいたな』
「ど、どどどどど、どうしてそれを……?」
 純友は泣きそうになりながらかろうじて言い返した。それには答えず、男は言った。
『あの時も、群馬の時も、その式神がクグツの居場所を突き止めていたというわけか。
……目障りな。そいつを渡してもらおう』

66 :見習いメインストーリー:2007/02/16(金) 01:21:51 ID:ZYUfvIQ30
 男が進み出ると、大洋が前に出て純友を庇い立った。
「ふざけんな。コイツだけが、多美ちゃんを見つける手掛りなんだ。オマエらに渡せるか」
 足を止めた男が、すいと指を差し向けた。途端に大洋は全身が重くなり、がくりと膝を落とした。
「た、た、た、大洋?」
 鍛えている者ほど、彼らの発する邪気の影響を受け易いとは、聞いていたが。
「チクショウ、なんでおれだけ──」
 地面に手をつき、額に汗をにじませながら大洋は言った。
 鍛えていない純友が影響を受けていないのはわかる。だが──
(昔『飛車』をやっていたおやっさんが、なんで平気なんだ……?)
 勢地郎は、まったく邪気の影響を感じぬかのように、純友たちと男女の間に立っていた。
「おやっさん──?」
 その後ろ姿を不審そうに見上げて、大洋は言った。
 大洋に差し向けていた手を降ろした男が、突然けたたましく笑い出した。
『なんだ、そうか。そういうことか……!』
 おかしくてたまらない、という様子で男は純友を見て言った。
『あの時、クグツを通して見ていた時は、単に鍛え足りない者が邪気に無反応なだけだと思っていたが』
 クックックッ、と笑いを押し殺しながら、男は空中に何かの文字を書いた。可視化された光る文字が、
男の手がかざされると純友を目がけて飛来した。
『──目覚めよ!』
 純友の額に、光る文字が張り付いた。途端に頭の芯から熱いものが込み上げ、純友は思わず額を抑えた。
「うッ……わァ──」
 純友の全身が光り始め、薄暗かったトンネルの中が目も眩む光に包まれた。そして──

67 :見習いメインストーリー:2007/02/16(金) 01:23:36 ID:ZYUfvIQ30
 光が徐々に消え去っていき、大洋はまぶしさに閉じていた目を、ゆっくりと開いた。
「純友──」
 大丈夫か、と声をかけようとした先に、純友の姿はなかった。
 先程まで純友が居たその同じ場所に、黒装束の異様な存在が立っていた。
「まさか……!!」
 大洋の疑念を確信に変えたのは、勢地郎の緊迫した声だった。
「純友君!」
 勢地郎が声をかけたその人物は、純友と大洋が半年前に遭遇した、あの黒クグツと同じ姿をしていた。
「な──何言ってんだ、おやっさん! ソイツが──そのクグツが純友だと!?」
 純友よりもやや背が高く、全身を黒装束で包み、黒い帽子とフードの間から目元のみを覗かせたその姿。
『わかったか』
 笑いながら、男は這いつくばる大洋に言った。
『今この場にいるのは、おまえを除きすべて我らが血族──スサ・タチバナの血族だ』
「スサ・タチバナ──だと──?」
 かつてみどりに聞いた、「凄・橘」のことを思い出した。字こそ違うが、純友と勢地郎の名字は
確かにそれと一致する。
『スサ、タチバナ姓を持つ者や、その流れを汲む家系の中に、時おり我らの血を色濃く受け継ぐ者
がいる。そこの立花勢地郎もその一人だ。我らの邪気の影響を受けていないのが、その証拠だ』
「たちばな──橘──」
 大洋は、多美の名字もまた「タチバナ」であることに思い当たり、そして──力を振り絞って
立ち上がり、怒りに満ちた声で叫んだ。
「テメエら──テメエらが、こうやって多美ちゃんを白クグツに変えたのか!」

三十八之巻「纏う黒衣」了

68 :見習いメインストーリー:2007/02/16(金) 01:24:55 ID:ZYUfvIQ30
次回予告

「純友っ、純友!──返事をしやがれ、バカヤロウ!」
『あの音式神には、我らに恨みを持つ者の魂が宿っている』
『いいか、そいつは決してお前の味方なわけではないぞ』
「『たちばな』の皆に説明をするのは、本部に行ってウラを取ってからだ」

見習いメインストーリー 三十九之巻「仇なす式神」

69 :名無しより愛をこめて:2007/02/17(土) 03:49:28 ID:wSHyvDMEO
謎の男=勢地郎(笑)
そーいやあったなそんなネタ

70 :名無しより愛をこめて:2007/02/17(土) 17:15:14 ID:T+dGlGEoO
(´;ω;)
鬼さん達しんじゃうの?


と小4の甥っ子が泣いておりました




71 :名無しより愛をこめて:2007/02/17(土) 20:16:32 ID:ZGG0UPG0O
↑これほど熱心な読者が居たのか(ノ_・。)

72 :名無しより愛をこめて:2007/02/17(土) 22:19:44 ID:mOrbRIAG0
小4の子供に、2ch見せるのは如何なものかと思った…

73 :名無しより愛をこめて:2007/02/18(日) 00:08:59 ID:xWOGwaEbO
いやいや
語ってあげてます

響鬼には続きがあるんだよと

難しい漢字読めないしww



74 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/19(月) 19:59:09 ID:H27Ap/XYO
――瞬過終闘 『七 謎の男女 《行き着く終幕(はじまり)》』

「‥‥分かった、ありがとう」
夕方。たちばなにショウキの飛車・志村から掛かってきた電話は、イブキに弾鬼と剛鬼が『影』に斃された事を知らせた。
ショウキは集中治療室から暫く出られないと言う志村に、猛士本部から医療班が向かったと安心させ、ゆっくり休むように伝えるとイブキは受話器を置いた。
「‥‥」
テレビを点けると、どの放送局も国会に乱入した『二人』の正体や、殺された大臣、気絶し醜態を晒した総理への無駄な批評と意見を延々と流し続けていた。
「‥‥」
勢地郎は無言のまま茶を啜り、息子の疾風と共に知人の法事から帰宅したイブキの妻・和泉香須実も、聞かされた話に言葉が出ない。
たちばながある通りは昔ながらの町並みを、オレンジの陽光と瑠璃色の影に彩られ、その中で6歳になったばかりの和泉疾風はボールを蹴っていた。
「あれ‥‥?」
車の通行が稀なこの通りに、たちばなの店先で停車したタクシーはこの少年の瞳に珍しい事と映った。
後部座席から降りた乗客の母子は、運転手にエンジンを止めさせて店に入ろうとした。次第に増していく夕闇の中、疾風はその顔を見て声を出した。
「明衣姉ちゃん!」
振り向いた剛田明衣―― 剛鬼の娘は、久々に会った幼馴染みに笑顔を見せた。疾風より4歳年上の彼女は、母親と二三、言葉を交わした後で駆け寄ってきた。
「よっ! 元気だね少年!!」
腕を身体から直角に伸ばし、相手に甲を向けた左の握り拳を肘から持ち上げるポーズは、父親・ゴウキのものだった。
「姉ちゃんも、おてんばだね!」
イブキの得意ポーズで挨拶を返す疾風の頭を軽く叩き笑う娘を見た後、剛鬼の妻・五月は安堵の表情を見せる。
覚悟を何度重ねようとも、目の当りにする瞬間の現実は、耐えきれない重さで降り掛かってくる。
五月は、勢地郎からの電話を受けてから纏い続けた覚悟に真顔で向き合い、最後の覚悟を羽織って戸を開けた。

75 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/19(月) 20:00:50 ID:H27Ap/XYO
洋館。古びた洋館。
付近の住民も通り過ぎる人々も、その場所にそれ以外の認識を持たない。
不気味・怪しい・幽霊屋敷といった言葉を付け加えるヒトは、『陰』への感覚が優れてはいるが決してそれ以上を知る由はない。
錆びた門は開けられ庭に停まっている高級車の中には運転手が睡眠薬を飲んで深い眠りに逃げていた。
埃の積もる廊下には、新しい足跡が幾つも、奥の一室へと続いており、他の部屋はまるで存在していないように無視されていた。
「‥‥今晩は、御『二人』さん」
扉の向こうは実験室だった。床にはフラスコやビーカーの破片が綿埃に絡まれ、カーテンのない窓から差し込む月光に煌めいている。
日高博昭は比較的丈夫な椅子に座り、小さなビーカーを灰皿に葉巻を吹かして目の前の暗闇に呟いた。
彼の後ろには、たちばなに日高と共に現れた若い男女と、黒い戦闘集団を率いていた大男が佇んでいた。
「こんばんは‥‥ ああ、月が綺麗だね。刄の様に冷たそうだ」
「本当に‥‥ 私は一度、あの下弦に突き刺されてみたいのです」
瞬きをする暇もなく、『二人』は日高の前に立っていた。だが日高は驚かず、灰を落とした葉巻を口にしながら笑顔を見せた。
「いや、『アンタ達』に昼夜の概念が有ったとはね。こちらはただの『ヒト』で悪いが、今日の成果はご存じ‥‥ だろう?」
葉巻の火種だけが、闇の中で一度輝きを増し、すぐ灰に隠される。
「うん。まあ良いんじゃない。鬼が4つ死んだし、『ヒト』もさっき鬼のコトを知らせたし」
「‥‥我が子達、上出来ですよ。サッキ、よく頑張りました。ハイキ、ちゃんと言う事を聞きましたね」
大男は無言で頷く。若い女は首を傾けて無邪気な顔を見せた。
「それにクジキ、もう少し待ちましょうね。この『ヒト』が、今回の『遊戯』の『王』ですから」
「‥‥ああ。暴れるだけなのは好きじゃない」
若い男は、唇を夜空に輝く三日月の様に歪めた。

76 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/19(月) 20:04:35 ID:H27Ap/XYO
「‥‥と、言う事で。引き続きこの三人は俺が使わせて貰う。出来るだけアンタ達を満足させられる終幕を造る為にな」
「‥‥うん。今の所は面白いよ。ボク達はアレだけで良かったかな?」
日高は葉巻を揉み消すと頷き、『二人』に細長い金属ケースを取り出した。
「アレで充分だ。アンタ達を知る老人共は恐怖に眠れなくなり、官僚と呼ばれるマリオネットを通して非難の矛先を国家から『鬼』に向けた」
『二人』はケースを持つと暫く眺め、先端を指先で溶かすと中から葉巻を取り出し、カットされた先を指で摘むと火種が出来た。
「70年前から『傍観者』だったこの国もこの国の人間も、一夜で『当事者』になった。俺がやろうとする事の半分は、『傍観者』のままでいたい国民が責任転嫁にやってくれるだろう」
『二人』は口にした葉巻を一息で根元まで灰にすると、煙を出さぬままその残骸を床に落とした。小さな火花が転がった。
「‥‥つまんない」
それだけ言うと、『謎の男女』は消えた。だがそれは見えなくなっただけかも知れない。『二人』は存在し、存在しないもの。何処にでも現れ、何処にも居ない。
「『猛士』の連中も解っちゃいない‥‥ 物事の始まりは複雑に見えて単純だ。どれだけ枝を飛び移っても、どれだけ根を伝っても、答えには辿り着けない」
日高は目の前の暗闇へではなく、後ろの三人に向けてもいない言葉を、笑いながら続けた。
「どんな事柄にも、公になった枝葉と隠された根毛がある‥‥ だが真実、始まりは一つの幹でしかない。何世紀も続いた『鬼』の戦いが、『奴等』の『暇潰し』だったように――」

その夜。
政府は国民に対して、今まで守秘し続けていた『猛士』、『鬼』、『魔化魍』の事実と存在を、一気に公開した。

続く

77 :裁鬼作者 ◆7Sc0zX31MU :2007/02/19(月) 20:12:10 ID:H27Ap/XYO
【今日の裁鬼さん】
裁鬼「おっ! 今日は調子が良いぜ!!」
石割「やった! もう少しで久々に魔化魍倒せそうですよ!!」
裁鬼「よ〜しっ! いくぜ! 俺の必殺技・パート63!!」
石割「‥‥(いつもの閻魔裁きだろ、早くしろよ)」
(裁鬼心の声)『フルチャージ!』
裁鬼「あーっ! 極楽投げ捨てちまった!」
ヤマアラシ「ンモーッ!!」
裁鬼「うわー」
石割「‥‥(;TдT)」
○ヤマアラシ 【ポイ捨て禁止】 裁鬼●
今日の裁鬼さん 第5回 終わり つづく

78 :見習いメインストーリー:2007/02/20(火) 12:31:26 ID:Ek7ryN5c0
前回は>>64から

三十九之巻「仇なす式神」

 薄暗いトンネルの入り口に立つ黒装束の男は、唯一覗くその目元も黒い帽子の陰に隠れ、
その心中はまったく読めなかった。
「純友……」
 大洋は、おそるおそる声をかけた。しかし男は無言のままで、果たして言葉を発する事ができるか
どうかもわからない。
「純友っ、純友!──返事をしやがれ、バカヤロウ!」
 勢地郎は、やり切れぬ思いで目を閉じた。和装の男女はその様子を見て冷たく笑っていた。
そして──
『な、な、なに?』
 その場に、戸惑った声がした。誰もが、それが何者の発したものか判らず、動きを止めた。
「純友……?」
 黒クグツが、人ならぬ響きを帯びてはいるが、確かに純友の声で大洋に答えた。
『なんかその──おデコに張り付いて、すごい熱くなって──死ぬかと思ったぁぁぁ〜』
「おい、おまえ、そのカッコ! 気付いてないのか?」
 大洋に言われて、純友は自分の顔を覆うフードや、身を包む黒い装束に気付いて言った。
『ななななな、なにコレ!?』
『ばかな、なぜ──』
 男の目に、黒装束の純友の胸元から発される「気」が光となって映った。
『また、あの音式神か』
 女が男の横に進み出て言った。
『あの音式神には、我らに恨みを持つ者の魂が宿っている。我らの血族に対する敵意に満ちている』
『なに?』

79 :見習いメインストーリー:2007/02/20(火) 12:33:25 ID:Ek7ryN5c0
 純友は腕を上げたり足を上げたりして、自分の姿をよく確認してから言った。
『え? これってあの、黒クグツの──』
「オマエの今のカッコ、黒クグツになってんだよ!」
『え? なんで? なんで?』
「おれが知るか!」
 二人が言い合っているところに、男が口を挟んだ。
『我らが血族の者よ』
 大洋と、黒装束の純友は男に向き直った。
『その音式神は、我らに恨みを抱いている。──いいか、そいつは決してお前の味方なわけではないぞ』
 純友は、今まで何度も自分を救ってくれた消炭鴉に対して意外な事を言われ、当惑した。
『え……?』
 女は、純友の黒装束の下にあるディスクアニマルを指して言った。
『その音式神は我らが血族に仇なす者。そしてお前も、その血族であること。それを忘れるな』
 彼らは背を向けて、その場を立ち去っていった。

 黒装束を取り払うと、その下からは、純友の元の姿が現れた。
 勢地郎は、厳しい顔で純友に言った。
「純友くん。今後、決してそのディスクを手放さないように。そのディスクが、君の心が彼らに操ら
れるのを防いでいたんだと思う。──私もかつて、心を鍛える前は、そういったものが必要だった」
「事務局長……?」
「それ以前に、君たちだけで彼らに近づいてはいけない。──前にも言ったと思うが」
 橘多美を見つける目的以外では近付くつもりもなかったが、それは言えなかった。

80 :見習いメインストーリー:2007/02/20(火) 12:34:45 ID:Ek7ryN5c0
「大洋君、きみ──さきほど、あいつらに対して『タビちゃん』とか『白グツ』とか言っていたけど、
あれは一体──」
 大洋は一瞬怯んだが、すぐに言った。
「な、なんでもないっス。あいつらを驚かせようと、ちょっとハッタリかましただけっス。
それより、さっきあいつらと話していた、『コダマの森』とか『オロチ』とかって一体なんなんスか」
 その言葉を聞いて、勢地郎は顔色を変えた。
「君たち」
 勢地郎は、二人に向けて言った。
「今日、君たちが彼らに近づいたことは不問とする。その代り、今日のことは誰にも言わないでほしい」
「え……?」
 大洋は勢地郎に確かめた。
「誰にもって……『たちばな』の人にも?」
「ああ。今はまだその時じゃない。私は、彼らの言葉だけを信用するわけにはいかない。
『たちばな』の皆に説明をするのは、本部に行ってウラを取ってからだ」
 その言葉通り、勢地郎は吉野の本部に出張し、月末まで「たちばな」に戻ることはなかった。

 勢地郎が関東から離れている間、天美あきらがイブキの弟子を辞めることとなった。そして、
入れ替わりに安達明日夢と桐矢京介がヒビキの弟子となった。
「桐矢くんって……ああ、一度将棋部に来た、あの──」
 日曜の研修の合間の休み時間、みどりにそのことを聞いて、純友は、将棋部の見学に来て
五面打ちで全勝して去っていった、あの明日夢の友人を思い出した。
 休憩が終わり、実技研修として、今日も二人は「魔化魍予測システム」の操作練習を行った。

81 :見習いメインストーリー:2007/02/20(火) 12:36:35 ID:Ek7ryN5c0
「これがねえ……最近の不規則な魔化魍の出現パターンに全然対応できなくて」
 みどりは額に手を当てて困った表情で言った。
「今月上旬に発生した『コダマの森』っていう現象があって──事務局長が本部で見つけた古文書に
よると、これって不規則に魔化魍が大量発生する現象の前兆らしいのね。その現象のことを『オロチ』
って言うんだけど──まあ、すべては伝承にすぎないから、しばらくは様子見かな」
 だが、純友と大洋は、それが単なる伝承ではないことを知っていた。先日の「凄・橘」たちの
言っていたことが本当だとすれば、「オロチ」は確実に始まっている。そして、彼らは言っていた。
「鬼を集めなければ、すべてが滅ぶ」と──

「天美さんは、家族を魔化魍に殺された憎しみを消すことができずに、悩んでいたらしい。消せなければ、
『憎む戦い』は出来ても『護る戦い』はできないから。──それで、悩んだ末に鬼になることを辞めたって」
 研修の帰り道、純友は大洋に言った。
「ぼくたちも、橘さんが生きてるってことがわからなければ、そうなっていたかもね」
「生きてんだよな、多美ちゃん。ただ、あいつらに姿を変えられただけで──白クグツの姿の下には、
おれらが知ってる多美ちゃんがいるんだよな」
 希望に満ちた声で大洋は言った。
「うん。橘さんは……生きてる。生きてるんだ」
 自らに言い聞かせるように、純友は言った。
「あいつらは、橘さんを殺そうとしている。ぼくらが、あいつらより先に橘さんを見つけて、
なんとか元の橘さんに戻さないと。──ぼくらの手で」
 そう言って、純友は懐にあるディスクアニマル・消炭鴉に手を触れた。「凄・橘」の言葉によれば、
消炭鴉は純友の味方ではない、ということだが──今の彼らには、橘多美への手掛りはこれしかなかった。

三十九之巻「仇なす式神」了

82 :見習いメインストーリー:2007/02/20(火) 12:38:07 ID:Ek7ryN5c0
次回予告

「あいつら、自分たちが生み出した命も、それ以外の命も何とも思っていないみたいだから」
「……ぼくには、あいつらと同じ血が流れている。ぼくのこと、怖くない?」
「なんか、鬼の見習いとして修行をしていた頃のことを思い出すっス」
「こんにちは。トドロキの見舞いに来てくれたのか」

見習いメインストーリー 四十之巻「挫けぬ雷」

83 :凱鬼メイン作者 ◆Gs3iav2u7. :2007/02/20(火) 22:56:58 ID:cqWLVr1N0
まとめサイトの方からのスレへのリンクに、なんらかのエラーが起きているみたいですが・・・。
そのせいで、まとめの方の管理人さんの更新が遅れてるんじゃないでしょうか・・・?

84 :名無しより愛をこめて:2007/02/20(火) 23:37:25 ID:vlr5KqaB0
>凱鬼さん
まとめサイトのリンク、板引越し前のSSスレのURLですね。
板引越しに気付かずに、スレ落ちしてるのと思われてそうです。

凱鬼さんがまとめサイトの掲示板に書きこみをされてるので、
そのうち気付かれるかと。

85 :名無しより愛をこめて:2007/02/21(水) 00:14:37 ID:DRqhq48T0
まとめサイト、今年になってから更新がナイみたいなので、
取りあえず今年以降の分が見れるように簡易版のまとめを作りマシタよ。

ttp://hwm7.gyao.ne.jp/lica/hero_ss/

本物のまとめサイトみたいに、ケータイから過去ログ見れるようにトカは
デキナイんデスけど、本物が再開するまではコレで我慢してクダサイませ。

86 :凱鬼メイン作者 ◆Gs3iav2u7. :2007/02/21(水) 21:24:44 ID:Yex9J1Yo0
>>85
仕事早いですね・・・w
乙です。

85 KB
■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています

★スマホ版★ 掲示板に戻る 全部 前100 次100 最新50

read.cgi ver 05.02.02 2014/06/23 Mango Mangüé ★
FOX ★ DSO(Dynamic Shared Object)